淋病とは?

淋病とは淋菌(Neisseria gonorrhoeae:ナイセリア ゴノレィ)によって引き起こされる性感染症(STD)です。

アメリカの公的機関・CDCによると、世界における淋菌感染症患者は1975年以来減少を続けてきたものの、1996年から横ばいになり、1999年から一転して連続して増加傾向にあると報告されています。

なお平成29年の我が国での淋菌感染症の報告数は、男性6459件、女性1648件、総数8107件であり、平成26年の9805件から連続して減少しています。

日本での感染者は20代が最も多く、女性よりも男性の感染者の報告が圧倒的に多くなっています。

これは男性の方が淋病にかかりやすいということではなく、淋病は女性ではほとんど症状が現れないため大多数が見過ごされているということを表しているのです。

この「女性が無症状であること」も淋菌の感染症がなくならない大きな原因の一つとして考えられています。

また淋菌は一度感染して治癒した後でも何度でも繰り返し感染を引き起こすということが知られており、セックスパートナーの女性が淋菌を保有していた場合、男性は何度でも感染を繰り返すことになります。

淋菌に感染することでHIVに感染しやすくなるとの報告や、淋病の患者はクラミジアによる感染も同時に起こしている人も多いとの報告もあり、そのような意味でも淋病は重要な疾患です。

それではここからは淋病についてさらに詳しく見ていきましょう。

淋病の男性と女性の症状は?

淋病の原因である淋菌は、男性の尿道、女性の子宮頚部に感染し、男性と女性によって症状が異なります。

男性の場合

男性が淋菌に感染すると3日から9日程度の潜伏期間を経て自覚症状が出現します。

最も多い症状は、おしっこをするときの痛みと尿道口から出る黄色い膿です。

淋病は英語でgonorrhaeと言いますが、この「gono」は「精液」、「rhei」は「流れる」という意味があります。

尿道から膿が流れている姿を見て、「勃起していないのに精液が滴っているように見える」ということでこの病名になりました。

尿道炎を放置すると前立腺炎に進行し、さらに精嚢炎、精巣上体炎、精巣上体精巣炎にまで波及し深刻な病態になります。

しかし必ずしもこういったわかりやすい症状が現れるということではなく、条件によっては無症状で経過することも知られています。

女性の場合

女性が淋菌に感染した場合の症状は、おりものの増量、膿のようなおりもの、性器からの不正出血、おしっこをする時の痛み、下腹部の痛みなどがあります。

そのまま感染が深部に進行すると、骨盤内炎症性疾患といわれる、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎を引き起こし、不妊症の原因となります。

しかし、自覚症状が現れる女性は男性と比べて圧倒的に少なく約8割の女性が無症状で終わることに加え、淋菌に特徴的な症状はないため、その多くが見過ごされがちです。

もちろん淋菌感染症により陰部のかゆみを伴う事もありますが、それはおりものが増えることによっておこる二次的な症状であり、陰部にかゆみがあるからといって淋菌を強く疑うということにはならないでしょう。

あくまでも可能性の一つとして考えることはできますが、まずは他に原因があると考えたほうが良いと思います。

淋病になる原因や感染経路は?

淋病は淋菌が感染することによって起こります。

性感染症

淋菌は環境の変化に非常に弱く乾燥や日光により容易に死滅してしまいますが、人間の粘膜では長い時間生存が可能であり性交渉を介して感染が拡大します。

一回の性行為による感染率は30%と言われており、性感染症のなかでも比較的高い部類に入ります。

最近ではオーラルセックスやアナルセックスの増加に伴い、咽頭や直腸での淋菌の保菌が問題となっています。

咽頭や直腸に淋菌を保菌している場合とくに症状がないことが多く、これが淋菌のさらなる感染を広げる大きな原因とも言えるでしょう。

母子感染

妊娠中の女性が淋菌に感染するとお腹の中の胎児に悪影響を与えます。

淋菌は新生児の眼に感染を起こし、新生児結膜炎を引き起こすことがあります。

淋病はお風呂で感染するの?

淋菌自体は非常に環境の変化に弱い菌であり、人間の粘膜から離れるとみるみるうちに弱り死滅してしまいます。

そのため性交渉以外で淋菌に感染することは非常にまれであるとされています。

しかし性活動のない女児が浴場で感染したと思われる、女児淋菌性外膣炎という報告もあり、必ずしもお風呂で感染しないとは言い切れません。

ただこの場合は、浴槽内のお湯に浮いている淋菌が付着して感染を起こしたのではなく、淋菌感染症の女性が直前まで座っていた浴場の風呂の縁、洗い場の椅子にすぐに座ったことによって感染を引き起こしたと考えられており、確率的には非常にレアなケースであると考えられています。

もし気になるのであれば浴場のお風呂の縁に座ることは控える、他の人が座った椅子は自分が座る前によく洗い流すといった対策をとることをお勧めします。

淋菌はお風呂で感染する可能性は低いというものの、自宅のお風呂であればマナーとしても同じお風呂に入らないほうがよいでしょう。

あまり気分がいいものではありませんよね。

淋病の治療方法は?

淋病は発見は早期発見して適切な治療を受ければ比較的簡単に治癒します。

そのため淋菌による感染症を疑うような症状が出現したのであれば、すぐに医療機関を受診し治療しましょう。

淋病の治療には注意点が幾つかあります。

自己判断で治療を中止しない

薬を飲むと比較的すぐに症状は治まるため、そのまま病気が治った気分になります。

症状が収まると薬を飲まなくなる人がいますが、それは絶対にしてはいけません。

なぜなら症状が治まったとしても淋菌はまだ少し体内に残っており、きっかけがあればもう一度暴れてやろうとくすぶっています。

途中で薬を飲むことを止めてしまうと残っていた淋菌がまた元気になり、再び淋病を起こしてしまうのです。

またさらに悪いことに、こういった不適切な治療をすることで薬に対して耐性を持つ淋菌が新しく出現してしまう可能性もあるということです。

薬に耐性を持った淋菌が増えてしまえば治療ができなくなってしまいます。

医師から完全に治癒した事を伝えられるまでは症状が治まったとしてもしっかりと治療を続けましょう。

セックスパートナーと一緒に受診する必要があることも

問題となる性行為がいつだったかを思い出し、もし心当たりがあれば必ずセックスパートナーにも一緒に受診してもらいましょう。

もしどちらかが淋菌を保菌しているままであれば、せっかく一方が治療をしてもすぐに再度感染してしまうのです。

場合によってはパートナーに不都合なことを言わなければいけない事もありますが、そういったナーバスな問題が淋菌を始め性病を蔓延させていることは間違いありません。

クラミジア感染を合併している場合もある

淋病を発症している人の場合、クラミジアによる感染症を合併している人も珍しくありません。

淋菌とクラミジアでは治療に有効な薬剤が異なりますから、医療機関を受診した際には淋病の検査と一緒にクラミジアの検査も行い、適切な治療を行う必要があるのです。

淋病の治療薬は?副作用はないの?

日本性感染症学会が推奨する淋病の治療薬は「セフトリアキソン」という抗生物質です。

その他効果が期待できる薬剤には、「スペクチノマイシン」「セフォジジム」「アジスロマイシン」「ミノサイクリン」などが挙げられます。

これらの抗生物質は人間に対する安全性が充分に確立されており、副作用の心配はほとんどありません。

しかし非常にまれではありますが体質によってはアレルギー反応を起こすこともあります。

淋病の治療費、治療期間はどれ位かかるの?

上で紹介した「セフトリアキソン」という薬を使えば淋病の治療は非常に簡単ですぐに終わります。

例えば淋菌による感染症が尿道炎・子宮頚管炎で治まっているのであれば、静脈注射1回でおしまいです。

入院する必要もなく、外来で受診・点滴治療をして終了です。

保険適応ですので、淋菌の検査は3000円程度、抗生物質の費用が2000円程度、診断と治療あわせて5000円程度準備しておけばよいでしょう。